輝きだけを残して

虹のような日々は終わらない

普通でいること

私は今日、大学生では無くなった。

それはつまり、学生という枠から外れて社会人になるということで。

今まで「学生だから」で何となく許されていたことが許されなくなる。

身分証明に学生証を出すことができなくなる。

1ヶ月や2ヶ月という長期休暇はやってこない。

 

「普通」の大学生でいられる時間が大好きだった。

そして、「学生」という身分が大好きだった。

この二文字があるだけで無敵だと思っていた。

何をするにも「学生」ということが私の背中を押してくれた。

 

私が大学生になりたいと思ったのは中学生のときで、

「大きな教室で授業をうけたい」

「学食をたべたい」

「屋上で友達とおしゃべりしたい」

そんな漠然とした大学へのイメージと、

「小山くんの後輩になりたい」

という理由だけで、大学への憧れが膨らんでいった。

 

だけど、大学生に憧れを抱いていた中学生の私が教室でみんなと授業を受けたのは1年生の1学期だけだった。

厳しい校則、可愛くない制服、同じものを食べなければいけないことへの嫌悪感。

3年間、一度も中学校という場所を好きになれなかった。

小学生の時から「中学3年間を飛ばして高校生になりたい」と思っていた私には、通信制高校しか選択肢がなかった。

 

自分で決めた高校は、可愛い制服を着てローファーを履いて、文化祭や体育祭があって。私が思い描く高校生活そのものと言っても過言ではなかった。

毎日楽しくて、大好きな場所だった。

 

けれど、私は普通の高校生活を手に入れることができなかった。

どこの高校に通ってるの?と聞かれても素直に答えられなかった。

週に3回しか学校に行かない私と違って、みんなは当たり前のように毎日、平日どころか土曜日も学校に行っていた。

同じ制服で修学旅行の写真を撮っていた。

私が中学生のときあれほど嫌だと思っていたことが、何故か、羨ましくなっていた。

みんなと同じが大嫌いだった私は、いつの間にかみんなと同じことを欲しがるようになっていた。

普通が1番難しいということを実感したのは、このときが初めてだった。

 

私が普通になる方法は、大学生になることだと、そう思った。

高校1年生のとき、担任の先生に「私は大学生になりたい」と伝えたら少し驚かれたけれど「今からそう思っていたらなれるよ」と言ってくれてすごく嬉しかったのを覚えている。

しかしそれと同時に、小山くんの後輩になることの難しさを知った。

小山くんが4年間過ごした大学は、義務教育もまともに受けていない私が単純な理由だけで進学できるような大学ではなかった。

それでも私は小山くんの後輩になりたかった。

小山くんの後輩になれば、自分の中にある劣等感はなくなると思った。

週に3日しか授業がなくても、平日の5日間は毎日高校に通うようになった。

昼休みも放課後も職員室に行って、友達との時間よりも先生との時間を優先させた。

毎日22時までコワーキングスペースで過ごした。

 

私は小山くんの後輩になった。

13歳のときからあこがれ続けてきたことが、現実になった。

夢が叶った。

 

与えられたのは4年間という限られた時間だった。

写真サークルに入った。

第二外国語で韓国語を選んだ。

友達の誕生日にケーキを作った。

2人の男性を好きになった。

朝まで中身のない会話で盛り上がった。

泣きながら電車に揺られた。

 

この4年間、私は確かに大学生だった。

電車で通学して、うとうとしながら授業を受けて、昼休みは友達と学食の油淋鶏を食べて、空きコマにはサークルのボックスでお昼寝をして。

朝5時の歌舞伎町を歩いたことも、一睡もせずにバイトに行ったことも、リクルートスーツを着てプリクラを撮ったことも、全部大学生の私がしたことだった。

気付かないうちに、思い出せないほどたくさんの思い出ができていた。

 

小山くんを好きになっていなかったら、きっと同じ大学を目指していなかった。

大切にしている友達と出会えなかった。

それどころか大学生にもなれなかった。

小山くんが、私を普通にしてくれた。

私が求めた普通の大学生が何なのかは分からない。

けれど私は確かに普通の大学生だった。

 

たいした資格も取らず、バイトに明け暮れることもなく、海外にも興味を持たず、周りからみてみればつまらない4年間だったのかもしれない。

それでも、私にとっては嫌になるほど求め続けたものだった。

ありふれた大学生のひとりになることができて、本当に幸せだった。

 

そんな4年間が終わってしまった。

自分が学生ではなくなることを受け入れられないし、社会人になる準備もできていない。

明日の朝、4年前に戻っていればいいのにと思う。

それくらい、私にとって最高な時間だった。

人生で1番たのしい4年間だった。

 

 

 

 

小山くん、私を普通にしてくれてありがとう。

 

 

今週のお題「卒業」